Svempa
– the one & only
10 july 2024
スベン-エリック "Svempa" ベルゲンダールは、ストックホルムのソーデルマルム出身の“ラッガー”¹から、世界的なトラックのカスタムキングへと駆け上がりました。半世紀にわたり、彼が手がけたスタイリング車両の多くは Scania の象徴となり、今なお新しいアイデアに情熱を燃やしています。MIL が彼と、常にパートナーとして共に歩むJan Richterに、Länna(ランナ) にある工房でインタビューを行いました。彼らが語るのは、創作の原動力、V8 エンジンへのこだわり、そして海水の水槽への情熱です。
今年1月、スベン-エリック "Svempa" ベルゲンダールは85歳を迎えました。
これは誰にとっても尊敬に値する年齢ですが、Svempaという人はやはり“ただ者ではない”と言えるでしょう。彼は今でもほぼ毎日工房に通い、時には週末も作業に没頭。次に取り組むトラックのデザインやアイデアに常に目を向けています。
「同世代の仲間――この歳まで元気に生きてるだけでも珍しいんだけど――からはよく言われるよ。『おい、まだ働いてるのか?』ってね。信じられないみたいだ。」
彼の原動力は、創造する喜びと尽きない好奇心。その情熱はトラックの世界だけに留まりません。これまでに競走馬を所有したり、熱心なウイスキー収集家としても知られています。
ストックホルム南部・スコンダルにある自宅を訪れれば、カスタムビルドのバーカウンター越しに、圧巻の光景が広がります。
「うちには4,000リットルの海水水槽があるんだ。色とりどりの魚や美しいサンゴが泳いでるよ。もう35年も手をかけてきた趣味なんだ。あと、庭いじりも好きでね。何かしてないと落ち着かないんだよ。家でじっとしてたら、気が変になってしまう(笑)」
Svempaは、カスタムトラックの製作と展示を50年以上続けてきました。Scania公認で彼が初めて手がけたショートラックは、1999年に登場したTopline Edition。その後は、各プロトタイプのデザインを反映した限定生産モデルが販売されるようになりました。これまでに製造・販売された「リミテッドエディション」は、なんと600台近く。車両はまずスウェーデン・セーデルテリエの工場で生産され、その後ランナの工房で内装・外装ともにカスタマイズされます。作業は協力パートナーとの連携で進められ、月あたり3台のペースで完成。仕上げられた車両は再び工場へ運ばれ、各オーナーのもとへと納車されます。
「完成したトラックは工場まで運ぶんだけど、中にはわざわざここ(工房)まで僕に会いに来て、直接受け取りに来るオーナーもいるんだよ」とSvempaは微笑みながら語ります。
*¹「ラッガー」…スウェーデンの50〜60年代に流行したアメリカンカーを改造する若者たちのサブカルチャー。
Svempaの最新作のひとつが「Frostfire」。このモデルは2つのシリーズに分かれており、それぞれ50台ずつが限定生産されます。
落ち着いたブルーの「Frost(フロスト)」、そしてSvempa本人が「コニャック色」と呼ぶ「Fire(ファイア)」※ただし、公式なローンチ資料では「サンバーストオレンジ」と記されています。
ランナの工房には、このFrostfireのオリジナルコンセプトカーが展示されています。この車は完全なショーモデルで、770馬力のV8エンジンを搭載しているものの、実際に牽引作業などには使われる予定はありません。
というのも、この車には第五輪(トレイラーカプラー)が装備されていないのです。この仕様について、長年のパートナーであり、Svempaのショーモデルを設計してきたチーフデザイナーのJan Richterはこう語ります:
「Svempaは “旋回盤はいらない” と主張し、経営陣もそれを承認したんだ。僕としては、カーボン製の軽量タイプでもいいから付けてほしかった。今の仕様では、ちょっと何かが“足りない”気がしてしまうね。」
これは、プロジェクトにおける妥協の一例でもあります。
SvempaとJan Richterは、年齢も背景も性格も、そして何より好みがまったく異なるふたりです。
「ヤンネ(Jan)は落ち着いた色合いが好きで、僕はピカピカのクローム仕上げが好き。よく冗談で“ヤンネの一番好きな色はマットブラックだろ”って言ってるよ。まあちょっと言いすぎだけどね。でも彼はシンプルで洗練されたスタイルが好きなんだ。装飾過多は好まない――そこは僕も同じ。」
Svempaの物語を語るとき、Jan Richter抜きには語れません。彼は書類上では“デザイナー”ですが、その存在は単なる裏方にとどまりません。Svempaの数々の成功は、彼との協働によって成し得たものです。
「僕はデザインとプロジェクト全体の責任者として、コンセプトを現実の形に落とし込む役割を担ってる。
最初にプロトタイプを一緒に作り始めたときは、もっと断片的だったけど、今では限定シリーズとしての完成されたコンセプトが前提になってきているよ。」
Jan RichterとSvempaは1980年代から共に仕事をしており、お互いの違いを尊重し合う、深い謙虚さと独特の信頼関係を築いてきました。
「僕は“裏方”の人間として、Svempaが自分のトラックを堂々と披露できるよう、安全な舞台を整える役割なんだ。Svempaはすばらしいビジョナリストで、起業家としても優れている。自分のアイデアを語る力があるんだ。」
Svempaは頑固者ですか?
「ああ、もちろん。でもそれは彼の強みだよ。僕はもう少し外交的で分析タイプ。人の話を聞いて、知見を取り入れる方かな。でもSvempaは、まるで “ベン・ハーの戦車馬”みたいに" とにかく突き進む"タイプだね。」
「そうだよ!とにかく前に進めなきゃ意味がないだろ!Scaniaの上層部ともやり合うことがあるよ。時々、あまりにも進みが遅くてね」とSvempaは笑いながら語ります。
Svempaの “エンジン愛” は、ストックホルムのソーデルマルムで育った少年時代にモペット(原付)をいじったことから始まりました。当時から、ただ乗るだけでなく、「改良し、洗練させる」ことに夢中だったといいます。
「最初はモペットにリムジンシート(長いシート)を付けたり、チューニングし始めた。それから16〜17歳になったときに“ラッガーカルチャー”にハマって、今度はアメ車をいじるようになった。」
車とバイクの整備士としての経験を積んだのち、26歳でレッカーサービス会社を立ち上げます。今もその会社には、彼のニックネーム「Svempa」がそのまま使われています。
創業当初、彼が使っていたのは1957年製のプリムスを自分で改造したレッカー車。
「ほんとに何も持ってなかった。完全にゼロからのスタートだったよ。ほかの業者は保険会社から仕事をもらってたけど、僕は警察無線を聞いて現場に駆けつけて、自分で仕事を取りに行ってたんだ。」
ほどなくして、Svempaは初めてのスカニア車を手に入れました。L76というモデルで、本人曰く「ほとんどタダ同然だった」といいます。
「それはもう、古くてサビだらけ、ボコボコの車だったよ。でも自分で修正して塗装し直したら、見違えるほど立派なレッカー車になったんだ。」
彼の会社の車両は、やがて「立派」なレベルを超え、見る人を魅了する存在に成長していきます。実際、スウェーデンにおける“トラッキング・カルチャー”――つまり、装飾や改造を施したトラック文化の先駆者として、Svempaの名を挙げる人は少なくありません。
「トラックって、内装も外装も、いろんなアレンジができるんだよ。古い乗用車をいじるのとは全然違う魅力があるんだ」と、Svempaは語ります。
「最初はね、ただ車を塗装するくらいだったんだ。そんなに大げさなものじゃなかった。でも、だんだんと他の人たちも内装をいじり始めてね。そうなると、こっちも常に一歩先を行かなきゃいけなかったんだよ。」
常に「新しいものを生み出す」という情熱は、Svempaを突き動かす最大の原動力のひとつに見えます。
「僕とヤンネは、いつも新しいアイデアを考えてるんだ。内装の工夫とか、新しいカラーリングとかね。何かに火がついたように、次から次へとひらめくんだよ。夜寝つけないときなんか、ベッドで“次は何を作ろうか、どんなことを仕掛けようか”ってずっと考えてる。持っているアイデアは、とにかく全部出し切りたいんだ。」
彼にはもうひとつ、もっとストレートなモチベーションがあるといいます。
「とにかく“かっこいいもの”を作りたい。」
その想いがあるからこそ、彼の Scania への愛着は、何よりもV8エンジンに集約されていきました。Scania 最大・最強、そして最も伝説的なパワートレインです。
「他のメーカーはすでにV8の製造をやめちゃったけど、Scaniaは今も作り続けてる。僕はこのV8が大好きでね、あの迫力がたまらないんだ。アクセルを踏んだ瞬間に背中をドンッと押されるような感覚――あれがいいんだよ。最初のV8が出たときは、たしか350馬力だったかな。でも乗ってすぐに“これは普通じゃない”って感じたね。」
現在、Svempaは自身初の電動コンセプトカーの構想を進行中。完成予定は2026年で、これまで通り「ただのEV」には収まらない、規格外の一台になる予定です。
もし、すべての条件が整っていて、どんな車でも作れるとしたら、どのような車を作りたいですか?
「そうだな……キャビン全体をカーボンで作って、アルミホイールはキャンディ塗装にしたいね。それから、キャビン自体のデザインも新しくしたい。もう少し車高を低くしてみたいんだ。僕は低い車が好きだからね。」
Svempa(プロフィール)
名前: スベン-エリック "Svempa" ベルゲンダール
家族: 妻 Monika、子ども Susanne・Lasse・Roge
居住地: ストックホルム南部 Sköndal(スコンダル)
Photo by Daniel Gadd