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GRIFFINマガジン - 2024年6月24日

<2024年問題>フェリー会社の挑戦に見る、モーダルシフトの可能性

2024年4月より、いよいよ日本のトラックドライバーにも「働き方改革関連法」が適用されました。ドライバーの時間外労働が年間960時間に制限され、これまで運べていた荷物が運べなくなる恐れや、ドライバーの賃金が低下してドライバー不足が加速するなどの影響が懸念されています。いわゆる「2024年問題」です。

 

2030年には2015年比で約35%の荷物が運べなくなるとの試算も出ており、日本政府も荷主も運送事業者もそれぞれに対策を講じてきました。なかでも注目されているのが、「モーダルシフト」です。モーダルシフトとは、トラックなど自動車による輸送を鉄道(コンテナ貨物)や内航(フェリー・RORO船など)による輸送に切り替えることをいい、政府も2023年10月に掲げた「物流革新緊急パッケージ」で、「鉄道と内航船の輸送量を今後10年程度で倍増」する目標を掲げています。

 

常にドライバー不足の運送業界において、40年も前から存在するモーダルシフトを加速させるためには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。ここでは、海上輸送の変化を間近で見てきた、ジャンボフェリー株式会社代表取締役社長の山神 正義氏のお話をもとに、モーダルシフトの可能性を探りつつ、Scania(スカニア)が考えるソリューションをご紹介します。

神戸を拠点とする、小さなフェリー会社の挑戦

神戸の港にあるジャンボフェリー株式会社は、神戸から高松、小豆島を結ぶフェリー船を1日4便運航している海運会社です。前身の「加藤海運商會」の創業は1877年。フェリー会社としては比較的小規模ですが、社名とその歴史に力強さを感じます。

 

「フェリー会社と聞くと、乗り場で乗客に切符を売っているだけのイメージかもしれません。実際の業務は幅広く、1995年より国際貨物・国内貨物の集荷や配達、コンテナヤードのピックから返バンまで、物流の一貫輸送を担っています」(山神氏)

国際規格コンテナの普及で船の需要が拡大

かつての港の岸壁には荷役設備が一切なく、船に「デリッククレーン」が積まれており、海外の港ではそれぞれの船がこのクレーンを使って陸揚げしていました。

 

「荷物を積み上げたパレットや、4点吊りの『もっこ(巨大な風呂敷状の荷物)』など、形や重さが全く違う貨物を、ダンネージと呼ばれる“りん木”を使って積み重ねていました。もちろん、職人の技術や工夫が必要で、荷役には莫大な時間がかかっていました」(山神氏)


そんな貨物船が大きな変化を遂げたのは、1967年に日本初のコンテナターミナルがオープンしたことがきっかけです。国際経済の発展で物量が増え、国際規格である20・40フィートのコンテナに入れて運ぶようになり、この共通規格の「箱」が世界中に普及して物流の効率化が急速に進みました。積荷の大きさが統一されたことで、コンテナ船は「たらい」に積み木を乗せているだけの構造に。ホールドと呼ばれる巨大な倉庫には、余分な空間を作ることなく、コンテナがうずたかく積み上げられるようになったのです。

明石海峡大橋の開通でフェリーの利用者が激減

こうしたなかで、本州・四国間の船の需要は一気に高まりました。もちろん、ジャンボフェリーも例外ではありません。一般車もトラックも船に頼るしかなく、常に満船で、積み残しを出さざるを得ないほどだったといいます。しかし、同社の状況は、1998年の明石海峡大橋の開通で一変します。

 

「橋の開通によって、トラックが24時間通れる高速道路に流れてしまい、船の利用者が激減しました。それまで、高松・神戸間では4社6隻15便の船が動いていましたが、結果的に弊社の5便のみになりました」(山神氏)

 

そこでジャンボフェリーが着目したのが、「トレーラーのヘッドレス・フェリーを活用した無人航送」です。

 

荷台とキャビンがつながっているトラックではなく、ヘッドとシャーシが切り離せるトレーラーを活用すれば、船にドライバーが乗る必要がなくなります。また、着荷主の倉庫までを一本で結べるようになり、人件費や高速道路にかかる物流費も抑えられます。同社は、この「トレーラー化」の仕組みを荷主に提案して回りました。

 

「橋の開通前のフェリーのシェアは、10トントラックがほとんどだったのが、開通後はトレーラーのほうが圧倒的に増えています。本四高速が四国まで全通したことで有人トラックが減少して、10トントラックの割合は3割に。トレーラーが7割にまで増えています」(山神氏)

フェリーのライバルは高速道路

トレーラーとはいえ、有人で乗船するケースも少なくありません。それは、トレーラーの高速道路の料金が大型車よりも割高になるためです。

 

「トレーラーの高速道路料金は、大型トラックの1.8倍ほどかかります。フェリーも車長で料金が決まるため、大型トラックよりトレーラーは割高になりますが、高速道路料金の跳ね上がりと比べるとまだ抑えられますし、フェリーのほうがメリットは大きいんです」(山神氏)

ジャンボフェリーの航路の短さが課題に

一方で、ジャンボフェリーの課題は、長距離カーフェリーと比べたときの「航路の短さ」だといいます。貨物車の場合、航路が短くなればなるほど、フェリーを利用するメリットが小さくなりやすいためです。いまや日本の国土は橋と高速道路でつながり、24時間制限なく走れます。神戸周辺も例に違わず、明石海峡大橋をはじめ、大鳴門橋、瀬戸大橋、瀬戸内しまなみ海道ですべてつながっており、時間に追われる貨物車は橋に流れやすいのです。

 

「例えば、神戸から九州の800kmをトラックで走れといわれたら、料金が高くても船を選ぶでしょうが、弊社の航路は119kmです。4時間で到着するので、定められているドライバーの8時間の休息時間を一度では取れません。そのため、高速料金との差が1000円ほどなら『じゃあ、自分で走る』となってしまいます。弊社のライバルは、同業他社ではなく『高速道路』なんです」(山神氏)

それでも、ドライバーが運転から解放されて休めることから、ドライバーに乗船を指示する運送会社は少なくありません。ジャンボフェリーにはドライバーが快適に過ごせるようにと、シャワールーム付きの個室のドライバーズルームや食堂が備わっており、使用料はフェリー代に含まれます。何より、このフェリーによる無人航送が、2024年問題で最も影響が深刻だとされる人手不足に対して大きな効力を発揮することは、特筆すべき点といえるでしょう。

無人航送で輸送効率とドライバー不足問題を改善

無人航送のメリットについて、日本屈指の「紙」製造地帯である愛媛県の四国中央市を例に挙げ、さらに詳しく見てみましょう。

 

このエリアでは大手メーカーが工場を連ねており、神戸や大阪など関西一円の多くのドライバーが紙製品輸送を担っています。四国中央市から高松まではトレーラー輸送を行い、高松から神戸までの160kmは、シャーシを切り離したトレーラーだけを船に載せて航路で運びます。神戸でトレーラーを受け取り、関西一円へ輸送を行えば、必要な貨物車の台数もドライバーの数も大きく抑えられます。

 

「例えば、1台のトラックが10トンの荷物を四国で集荷し、大阪まで輸送するとします。これを60トン分輸送しようとすると、6台のトラックと6名のドライバーが必要になり、毎日繰り返すと往復12台のトラックと12名のドライバーが必要です。排気量の観点から多少の誤差はありますが、20トン積めるトレーラーだと、3台のトレーラーと3名のドライバーで集荷できる計算になります。毎日繰り返しても、往復6台のトレーラーと6名のドライバーで済んでしまうのです」(山神氏)

できるところから始めることが大切

荷主からの協力を得られれば、必要な車両と人材の数をさらに抑えることができると、山神氏は指摘します。

 

「荷主が出荷時間をずらしてくれれば、朝一番に集荷に回ったヘッドが昼前に2本目、夕方に3本目の輸送に対応できます。1台のヘッドで集荷し、フェリーは無人のシャーシだけを積み、配達も1台のヘッドで3台のシャーシとピストンですることにより、60トンの貨物を運べるようになります。つまり計ヘッド2台、シャーシ6台、2名で済むことになるという、かなり画期的な仕組みだと思います」(山神氏)

 

ただし、これを実現するうえでは荷主の協力が欠かせません。時間帯をずらして荷物を出荷するとなれば、その都度、荷主側の手間も時間も人手も必要になります。こうした懸念に対し、山神氏はすべての物流関係者が一斉に行う必要はないと説明します。

 

「モーダルシフトは、どこでも実現できるものではありません。そもそも、フェリーを使用したモーダルシフトは、海のないエリアには向かないものですし、日本の道路や配達先・集荷先の入口は狭く、トレーラーが入れない場所も少なくありません。デメリットよりメリットが多くなる顧客、現状よりも費用を抑えられる顧客から提案して、例えば1台で3本の輸送ではなく、2台で3本からなど、まずはできるところから始めることが大きな一歩になります。こうしたアプローチが、2024年問題の解決も後押しするのではないでしょうか」(山神氏)

国からの支援もモーダルシフト導入の一助に

運送業界のモーダルシフトには、もう一つ大きなハードルがあります。それは、「資金」面での課題です。業界の9割以上を占める中小企業がトレーラー化を進めるためには、ヘッドやコンテナのシャーシ、ウィング車など、現状の輸送形態から切り替える費用が必要となります。そこで期待されるのが、国から支給される補助金です。

 

「政府には、補助金に係る情報をなるべく早く公表して、申請対象期間を余裕をもった期間にしてほしいですね。取り組みを決めてシャーシの購入を検討しても、申請の期間がなければ対象外になってしまいます。補助があっても残りの資金調達も必要ですし、その工面をしなければなりません。時間切れにならないように、早急な決定と余裕のある申請期間の設定をお願いしたいです」(山神氏)

ピンチをチャンスに変えるソリューション

山神氏の指摘を受け、スカニアジャパンのプリセールズ部門でディレクターを務めるグンナ・ニフィヤル氏は、次のように見解を述べています。

 

「トラックドライバーの時間外労働の上限規制は、実は欧州連合(EU)ではすでに1960年代初頭に施行されており、輸送に携わる人々のワークライフバランスの確保や、道路上の安全性の向上などに貢献しています。あらゆる市場の輸送規制の進化に適応してきた長年の経験から、スカニアは、日本が対峙する『2024年問題』はピンチではなく、実はあらゆる面でビジネスチャンスになると考えています」(ニフィヤル氏)

 

2024年問題の解決に貢献するため、スカニアは2023年11月に新たなモデル「SUPER」を発表しました。2024年問題をポジティブな転機とするべく、SUPERは以下のソリューションを通じて運送会社の競争力の強化を目指します。

 

  1. 優れた燃費効率:パワートレーンを刷新することで、さらなる燃費効率の向上を実現し、輸送コストを削減

  2. デジタルエコシステム「My Scania」:燃料消費をさらに削減するためのデジタルツールを提供

  3. ドライバーアプリ:ドライバーが積極的に燃費効率を高められるように設計されたアプリケーションを提供

  4. より良い労働環境:ドライバーにとってより快適で安全な労働環境を実現

 

市場のメガトレンドについて、スカニアジャパンでは、今後はトラックおよびドライバー1名当たりの積載量が増え、より長い車両による物流にシフトすると分析しています。特にトラクターとセミトレーラー、リジッドとフルトレーラーの組み合わせなどのニーズは、中型リジットトラックの販売に比べてさらに増加すると予測しています。

 

山神氏が提唱するインターモーダル輸送は、日本の国土と道路インフラの性質、さらには、自然災害で道路が使用できなくなるケースに柔軟に適応するためのシステムです。「2024年問題」によって、今後は航空貨物や海上貨物が、道路輸送を支える重要な物流ベクトルとなることを踏まえると、トラクターとトレーラーまたはセミトレーラーの組み合わせは必須といえるでしょう。                                     

2024年問題を前向きに捉えるために

2024年問題において最も重要なのは、「ドライバーの労働環境の改善」ともいわれています。前述したSUPERのソリューションにもあるように、スカニアもその点を重視しており、「働く空間」だけではなく「生活する空間」としても魅力的な車室内環境を実現しています。

 

車体の大きいトラックやトレーラーは、駐車できる場所が限られており、休憩中も車内で過ごすドライバーは少なくありません。ドライバーの体格や働き方を問わず、快適に過ごせる車室空間の提供も、ドライバーの労働環境改善に大きく貢献できると考えています。

 

そして、ドライバーの労働環境を改善しながらも、日本の物流を止めないことが重要です。山神氏の指摘にもあるように、「できるところから始める」ことが、ひいては大きな力となるでしょう。

 

スカニアジャパンは「2024年問題」を前向きに捉え、問題解決の一助となるよう、より高い燃費、より効率に優れたオペレーション、ドライバーにとって快適な環境など、日本独自のニーズに合わせた展開を積極的に進めていきます。スカニアの技術力を結集した新型パワートレイン「SUPER」の詳細につきましては、以下のページよりどうぞご確認ください。